AI に作業の記録を残させると、書く手間はほぼなくなりますが、今度は記録が多すぎて探せなくなります。当社はこれを、情報を表に詰め込んで圧縮するのではなく、散文にほどいて意味で探す形で解決しています。これは AI に仕事を続けさせるための仕組み(ハーネス)の話であり、人間の会議の議事録の話ではありません。

同じチャットで続ければ忘れない、というわけではありません

AI に前回の続きをさせたいとき、「同じチャットで続ければ、前の話を覚えている」と考える方は少なくありません。けれども AI には、一度に読める量の上限があります。コンテキストウィンドウと呼ばれるものです。

会話が長くなって上限に近づくと、古い部分は要約に置き換えられるか、読まれなくなります。何を決めたか、なぜそうしたかといった細部から先に抜け落ちていきます。同じチャットを続けていても、前の話はいつの間にか薄れています。

手元に記録を残し、次の作業でそれを読む

当社が開発に使っている Claude Code は、この問題を人間と同じやり方で乗り越えています。作業の記録を手元のファイルに書き、次の作業ではそのファイルを読んでから始めるのです。人が引き継ぎのメモを残し、翌朝それを読んでから仕事に入るのと同じ形です。

当社では、作業の区切りごとに、その作業を担当した AI が記録を書きます。何を決めたか、なぜそうしたか、何を捨てたか、誰が決めたか、どこに反映したか。書式が決まっているので、毎回同じ形で残ります。

人が書くなら負担の大きい日報も、AI が書くのであれば人の手間はほとんどかかりません。すっかり廃れた日報の文化が、書き手を AI に替えたことで、もう一度使えるものになりました。

書く手間がなくなると、読む手間が残ります

記録が残るようになって初めて気づいたのは、読むほうが大変だということです。

9月26日を例に挙げます。この日の作業のまとめは6本で、それだけで約4万字ありました。調査の結果や点検の記録まで含めると、1日に書き足された文章は10万字をはるかに超えます。文庫本の小説1冊がおよそ10万字ですから、1日に小説1冊分以上の記録が増えていることになります。いま当社の記録は921本、合わせて約740万字です。

これは人にはもちろん、AI にも読み切れません。先述したように、一度に読める量の上限があるからです。すべてを読ませることはできず、必要な箇所だけを探して読ませることになります。

意味で探すと、表より散文のほうが見つかります

そこで、言葉の一致ではなく意味の近さで探す意味検索の仕組みを取り入れました。記録は見出しごとに区切られて蓄えられ、問いを投げると、意味の近い区切りだけが返ってきます。

ここで直感に反することが起きました。以前は、決まったことを1枚の表にまとめていました。人が見るには、それがいちばんわかりやすい形です。ところが想定される問いを12個用意して試すと、12問中8問で同じ表が返ってきました。表に情報を詰め込むと、どの問いに対してもその表が「近い」と判断され、区別がつかなくなるのです。

1つの決めごとに1つの見出しを立て、要点を最初の一文に置いた散文に書き直すと、12問中11問で、以前より問いに合った箇所が返るようになりました。情報は、圧縮するより、ほどいて散文にしたほうが引きやすいのです。

人にとってのわかりやすさが、邪魔になることがあります

表は、人が一目で全体を見渡すための道具です。けれども、探す側から見ると、表は中身の違う事柄をひとかたまりにしてしまいます。人にとってのわかりやすさが、そのまま AI の探しやすさになるわけではありません。

直感に反することは、ほかにもありました。細かく分けるほど探しやすくなるだろうと考えて、まだ決まっていない事柄を1件ずつに細かく分けたところ、問いへの近さはかえって下がりました。効いていたのは細かさではなく、1つの区切りに1つの話題が収まっていることでした。見出しの文字を探す対象に含めても、ほとんど差は出ませんでした。要点を見出しではなく最初の一文に置くのは、そのためです。

最初の設計を誤ると、手戻りが大きくなります

こうした整理の仕方は、始める前には見えません。当社も、最初の数日は別の書式で記録を書いていました。その書式の記録をどう扱うかは、いまも決まっていません。書式を変えるのは簡単でも、すでに書いた記録を書き直すのは手間がかかります。1日に小説1冊分が増えるのですから、気づくのが1か月遅れれば、書き直す量は小説30冊分になります。

捨てた案

  • 同じチャットで続ける。一度に読める量の上限があり、古い話から薄れていきます
  • 決まったことを表にまとめる。人には見やすいものの、探したときに区別がつかなくなります
  • 日ごとのまとめを作る。当初は作っていましたが、意味で探せるようになった時点で役目を終えたため、やめました
  • 記録を細かく分ける。探しやすくなると考えましたが、かえって問いに合わなくなりました

任された方が確かめられる問い

社内で AI を使い始めるとき、次の問いは始める前に確かめられます。

  1. AI の作業の記録は、チャットの外に残っていますか
  2. 次の作業で、AI がその記録を読んでから始める形になっていますか
  3. 記録の書式は決まっていますか。1つの区切りに1つの話題が収まっていますか
  4. 記録が増えたとき、全部を読ませずに必要な箇所だけを探せますか

どれも、最初に決めておけば手間のかからないことです。後から直そうとすると、それまでに増えた記録の分だけ手戻りが大きくなります。当社のAI 導入支援では、この記録の置き方と探し方を、使い始める前に一緒に設計しています。